あいつ by 風:詞,曲,歌声,そしてギターサウンドを味わい尽くそう

伊勢正三の名前を知っている人は,そう多くないかもしれない.しかし,フォークの名曲,風の「22歳の別れ」,イルカの「なごり雪」を知らない人は少ないであろう.この2曲だけでも,伊勢正三はソングライターとして日本の音楽史に名前を残した.しかし伊勢は,それ以外にも,多くの人は知らないかもしれない名曲を残している.「あいつ」はその一曲.

タイトルがひらがな3文字.英語で言えば,The Guyか.おそらく,日本の音楽史上,最も短いタイトルの一つかもしれない.なぜ「あいつ」なのか.その詞を聞けば,わかる.

「あいつ」の歌詞

長編映画の中のワンエピソードのようなストーリ.美しい歌詞と,美しいメロディ,繊細な歌声.

そしてさらに素晴らしいのは,日本が誇るアコースティックギターの名手,石川鷹彦のアレンジとギタープレイだ.彼のギターは,石川鷹彦サウンドと呼ばれる,独特の音色を出す.ギターという楽器は,同じ音をいくつかの弦で出すことができる.通常は,弾き手が弾きやすいように弦とポジションを選ぶのだが,石川は音色を優先して,ポジションを選ぶ.音色を優先すると,弾けなくなってしまう指使いになってしまう可能性があるが,おそらく,納得がいくギターメロディとサウンドを探し,奏法を開発しながら,アレンジと演奏を行っているものと思われる.その証拠に,彼のサウンドに憧れてコピーを試みる人は,私も含め,あるいはプロのミュージシャンも含め,多いのだが,あのサウンドは真似ができないことで有名なのだ.

このように,この唄は聞き所満載の名曲なのである.

1975年6月5日発売の,風のファーストアルバムの一曲. オリコン1位.発売当時,最高に売れたアルバム.36年間聞き継がれ,今も新品が売られているアルバム.私が36年間,無数回,聞き続けているが,未だに飽きることのないアルバムの一曲.

ファースト・アルバム

ファースト・アルバム