昭和と狂気が封じ込められた映画「野生の証明」

 ものすごく久しぶりに映画「野生の証明」をDVDで観ました.オリジナル映画公開は1978年.昭和53年.33年前.私,15歳.

 以下,内容に触れますから,読みたくない人は読み飛ばして下さいね.

 偶然ですが,デジタルリマスター版が出たばかりなんですね.私が観たのは,旧DVD版.

野性の証明 デジタル・リマスター版 [DVD]

野性の証明 デジタル・リマスター版 [DVD]

 今の時代に観て思いますが,すごい映画だったんですね.凄みに満ちています.無茶苦茶と言ってもいいくらい.あんな映画を作った時代が日本にもあったんですね.あれはおそらく,いろいろな意味で今の日本では作れないと思うし,ハリウッドでも作れないような気がします.

 まず凄いのと思うのは俳優・女優陣.出演者全員が全盛期のように思われます.全員のキャラが立っている.

 高倉健.昭和の時代,男と言えば,高倉健.きっと長らくあれが日本の男の理想像だったんだよね.日本が誇る,ワンアンドオンリーの俳優.あの人の前に出たら,こちらも無言になって,下を向いてしまいそうです.みんな,好きだったよね.高倉健になりたかったよね.しぶい演技なのに,アクションもこなす.何をしても絵になる.アメリカ人がクリント・イーストウッドが好きだったように,日本人は高倉健が好きだった.
 中野良子.すごい存在感.観る人の目を惹きつけてやまない,カリスマを感じさせる演技です.
 薬師丸ひろ子ワンアンドオンリーの女優.どうやってこういう人が見出されたのか不思議を感じる.演劇部,演劇団で鍛え上げられたタイプとは違う,天性の何かを持っている.
 松方弘樹.絶好調.最初から緊張感を漂わせ,終盤でマシンガンを撃つときの体の震わせ方には鬼気迫るものがある.
 夏八木勲.若い.今は老人役が多いが,昔はこんなに若かった,青かった.
 舘ひろし.とんがりのある若者役.
 三国連太郎.この人の仕事にははずれがない.
 大野雄二.音楽監督・作曲.彼の映画音楽は本当によい.
 町田義人.主題歌「戦死の休息」を歌った人.作詞:山川啓介,作曲:大野雄二.
 角川春樹.この映画の製作者.想像するに,この映画で一番凄かったのかもしれない.自衛隊をあんな風に動かすんだから.自衛隊もよくあそこまで協力したよね.

 狂気のような殺戮シーン.日本人同士の殺し合い.罪がない人まであんなに.日本で内戦が起きたら,ああいう感じになるんだろうね.あれは現代は,テレビ放送できないと思うなぁ.今だったらR指定.当時は,子供も含めて,みんな観てたよね.あの頃は,「狂気」とは受け取られなかった.

 社会が平和に,おとなしくなっていったんだよね.危ないことはやめましょう,という方向で.「平成」の世の中.当時は昭和.昭和が封じ込められている一本.

 危ないことはやめましょうとなったら,人々は鬱屈し,閉塞感を感じ,ときどき,とてつもない事件が起きる.

 昔はどきどき,はらはらの社会だった.今はそれが内にのめり込み,表面上は,どきどき,はらはらは一見ない社会.どちらが幸せなのか.そんなことを考えさせてくれた映画でした.