映画「チャイナ・シンドローム」:その主題は原発事故そのものよりも…

映画「チャイナ・シンドローム」をDVDで初めて見ました.映画の公開は1979年3月16日,スリーマイル島事故はそのわずか12日後,1979年3月28日に発生.正にジャスト・イン・タイムの公開でした.

スリーマイル島事故の詳細は事故発生時には分からず,この映画の想定を超えるはるかに超え,炉心溶融が実際に起きていたことがわかるのは随分後になってからでした.原発放射能汚染のため,簡単には調査・計測ができず,ブラックボックスとして,周辺状況から間接的に原子炉内の様子を推測するしかないので,その扱いが困難を極めるのが,今回の日本の事故で我々がリアルタイムに体験している通りです.

◯◯-シンドロームという表現は今ではよく使われますが,医学以外の分野で広く一般に使われるようになったのは,この映画がきっかけだそうです.わずか2単語で,映画が扱う題材を印象的に伝えています.この映画のために考えられた造語なのか,当時,知る人ぞ知る言葉だったのかわかりませんが,映画を観ていない人にまで,映画の存在を広く後世にまで伝えています.

この映画のプロデューサはかの名優,マイケル・ダグラス.映画の中でもフリーの敏腕カメラマンととして重要な役どころを演じています.若いです.

実際の大事故を体験した今,この映画を観ると,原発事故の描き方としては物足りなさを感じなくもありませんが,この映画が制作された1979年当時,実際の事故のシリアス度を知る前に想像だけで脚本を描くと,これが精一杯だったのでしょうね.それから,当時の米国でも原発反対運動はある程度活発に行われていたようで,しかも,映画の中でも描かれていますが,原発推進側によるマスコミへの直接的,間接的干渉もあったようですから,そういう意味でもこれが精一杯だったのかもしれません.

この映画の主題は,原発事故そのものよりも,「命がけの告発」です.パニック映画ではなく,社会派告発映画.告発にいたる過程を,背景設定から始まって緻密にプロットしているところはさすがハリウッド映画.そして,告発に至るまでの過程,複雑な心の変化を,名優ジャック・レモンが見事に演じています.レモンはこの演技でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞.もう一つの主題は,隠したくなる,あるいは,隠さざるを得ない状況という,「社会構造」.隠したくなる,隠さざるを得ない,これは古今東西を問わない,社会構造が抱える普遍的なテーマのようです.