プレゼンテーションに悩むすべての人達のために:プレゼンテーションの世界標準「構造的プレゼンテーション」

 国際会議で欧米の人のプレゼンテーションを聞いたとき、こんなことを思ったことはありませんか? 内容的には、それほど大したことないが、彼らはプレゼンテーションがうまい。大したことない話でも、いい話のように聞こえる。その点、日本人は下手だよなぁ、と。

 実は、欧米の人たちは、子供の頃から、下記に述べる「構造的プレゼンテーション」の教育を受けているのです。下記は口頭プレゼンテーションを前提に述べますが、文章でも、基本は同じです。以前、ドイツで、小学校の時からドイツで暮らしている日本人の方から伺いましたが、ドイツでは小学校のときから、文章を書くときは構造を意識せよ、ということをしつこく叩き込まれるそうです。

 プレゼンテーションの世界は実は非常に奥深く、極論すれば、内容に応じて、内容の数だけ、それにふさわしいプレゼンテーションのスタイルがあります。ですが、まずはプレゼンテーションの基本形を身に付けましょう。その基本形がこの構造的プレゼンテーションなのです。基本が身についたら、それを少しずつ崩し、ヴァリエーションを追求して行けばよいのです。それでも、いつでも基本は構造的であるべきことを忘れてはいけません。

 私はこれまで、東京大学筑波大学で約20年間、教育と研究に携わってきました。下記に書いた内容は、最初の約3年くらいの経験で気づき、徐々に書き加えながらまとめたものです。これを知らない学生さん達に、発表練習のたびに、しつこく、しつこく教えています。また、自分でも常に意識するよう心がけています。

 なお、このページは、伝えるべきことを思い出す度に、修整を加えて、成長させていきたいと思っています。元々は内部的なメモとして記録したもので、きちんと書き直してから公開しようかとも思いましたが、スピード重視で、公開します。

まずアウトラインを作る

  • スライドの枚数は、表紙を含めて、発表時間の「分」程度。例えば20分間の発表時間とすれば、20枚が標準。ただし、「紙芝居」的なスライドが入るときは、標準より多くてもよい。
  • アウトラインのキャプション(タイトル)を考え、順番をよく考える。
  • アウトライン項目、すなわち、スライドの順番は非常に重要である。アウトラインを考えている段階でも、スライドを作っている段階でも、仕上げの段階でも、これしかないという順番を見つけるまで、何度も何度も考える。

アウトラインの作り方

アウトライン作成の三大ゴールデンルール(これが一番重要!)
  • 「構造的であること」:全体のアウトラインも、スライドの中も、すべて構造化されていなくてはならない。
  • 「物語的であること」:水が流れるように、物語が語られるように、最初のスライドから最後のスライドまで、スムーズにつながっていなくてはならない。
  • 「すべて定義済みであること」:未定義の言葉、概念が出現してはいけない。未定義の語、概念はゴミとして、ゴミ集め(garbage collection)されていなくてはならない。
構造的であるために
  • 抽象度が高いことから、低い方へ並べられていること。抽象度が高いレベルの説明の後に、抽象度が低い(詳細な)レベルの内容を説明する。
  • 全体の中で、いまどこを説明しているかを常に意識しながら準備する。また、発表時にはそれを意識してしゃべる。
  • 概観を与えてから、詳細を説明する。
物語的であるために
  • 途中でストーリーが途切れないようにしよう。物語を語るということを意識しよう。
すべて定義済みとするために
  • すべての言葉は自明であるか、定義済みでなければならない。敢えて後で定義・説明したいときは、明にそう述べよう(「後述」と書いておく等)。
  • 発表タイトルを出発点として、最後のスライドに向かって、未定義がないように説明しよう。そうでないと、「物語」にならないはずだ。

プレゼンテーションの標準的な構成

  • 背景
    • 研究を始めるに至った動機、問題意識、過去の経験。何が問題なのかを説明する
    • 背景は基本的に誰もが納得出来るようにする。問題意識を共有できないと、聴衆は以後の話を聞く興味を失う。勝手な思い込みのようなこと、議論を巻き起こすようなことをここで書いたり、言うのはよくない。
      • ただしヴァリエーションとして、あえて、通常の常識の裏を書くようなことを言って、問題提起するということはときにあり得る。ただし、それは中級以上の人がやるテクニックと思った方がよい。
    • 背景で言う事、書くことは、evidence付きだと迫力が増す。本来はevidence付きにすべきで、そのためには、日頃から自分の主張、問題意識を裏付けとなる情報を集めておくとよい。
    • 背景は一般に短くするよう心がける方がよい。往々にして長くなりがちである。できるだけ早く次の目的スライドにたどり着くことを心がけるのがよい。
  • 目的
    • 解こうとしている問題を明らかにする。
    • 切れ味のよい表現を考える。目的が短めの言葉ではっきりと言い切れないときは、まだ検討・研究が十分でない。
    • ここまでの説明はすべての聴衆が理解できるようにしたい。
  • アプローチ、アイデア
    • 設定した目的を、いかなるアプローチ、アイデアで解こうとしているのかをわかりやすく説明する。
  • 研究内容
    • 図を多く使いながら、わかりやすく説明する。
    • ストーリーの構造を意識し、構造化を心がける。抽象度の高いことから、低い(細かい)ことへ。
  • 関連研究
    • 関連研究の位置は、研究内容の前という構成もあり得る。
    • どういう点が類似していて、どういう点が異なっているのかを明らかにする。できるだけ短い言葉で説明できるように、よく考察してから書く。
    • 自分の研究が優れていることばかりを強調しない。
    • 似た研究を羅列するのではなく、構造化されていることが望ましい。
  • まとめ
    • 本発表では結局、何を述べたのかを簡潔な表現で箇条書きする。通常、2〜3点にまとめる。
    • すべての聴衆が理解できるように心がける。
  • 今後の課題
    • 何がやり残された課題なのかを明らかにする。

個々のスライドの作り方

  • 原則として、すべてのスライドにキャプション(表題)を付ける。スライドの内容を一言で言い表わすような、的確なキャプションを熟考して付ける。キャプションを読むだけで、アウトラインがわかるように。
  • キャプションはすべてのスライドで異なっているのが原則である。
    • 続き物スライドのときは、1, 2, 3, ...のように番号をふる。1/3, 2/3, 3/3のように振る流儀もある。
  • 文章だけで説明しようとせず、絵を描くことを厭わない。
  • フォントの基本は、ゴシック体、Helvetica体等の、フォントを構成する線の太さが細過ぎず、一様的なもの。スクリーンに投影したときに見やすくするため。ただし、強調したい語句や、アクセントを付けたい語句には、自由にフォントを選んでよい。

絵を描くときの注意

  • 絵の中の字の大きさが小さすぎないように注意する。小さい字は、読まなくて良いという暗黙のメッセージとなる。
  • 無闇に矢印を引かない。
  • 関係ない線同士は出来るだけかぶらない(クロスしない)ようにする。
  • 線の太さにも注意する。同じ概念レベルのものは同じ太さになるように。
  • 色を使いすぎるとかえって見にくくなる。控えめとしつつ、効果的な配色を考える。
  • 色の意味(強調色)は、スライド間で統一する。
  • 同じ概念は同じ絵・図形で表現する。

グラフを描くときの注意

  • グラフの種類を熟考する。
  • X軸、Y軸が何を表しているかを記述する。その際に単位の記述は必須。
  • むやみにプロット点とプロット点をつなげない。つなげてよいのは、プロット点間に意味があるときのみ。
  • グラフについて口頭説明したい内容の要点をスライド内に書き込んでおく。スライドを見るだけでもわかるように。口頭説明に頼らない。

しゃべるときの注意

  • 口頭発表とは、伝えたい内容をもって、聴衆を説得するのが目的である。どうすれば説得できるのかを常に念頭においてしゃべる。
  • 早口にならないように。多くの場合、事前練習よりも早口になる傾向がある。
  • 聴衆の目、顔を見ながらしゃべるのが原則。聴衆が理解していることを確認しながらしゃべる。
  • しゃべる内容が意図的であるように、視線の置き方、見回し方、声の抑揚まで、すべてが意図的となっているのが理想的である。緊張すると、自分では気づかず、無闇に体を動かす人がいるが、体の動かし方も意図的とすべきである。口頭発表は、役者による演技のようなもの(すべてが意図的)と考えよう。
  • しゃべる際に、指示棒等でスライド中で注目して欲しいところを指すのが原則である。その際に指示棒の動かし方も意図的とすべきである。指示棒の動かし方は最小とするのがよい。

Q&A

Q: 割り当てられた発表時間は10分なのですが、スライドを準備してみたら20枚になってしまいました。どうしたらよいでしょうか?

A: 抽象化、あるいは、取捨選択をします。
 20枚の中で、背景の説明に枚数を使いすぎている場合、あるいは、内容の詳細説明がそのようになっていることが多いです。多くのプレゼンの場合、聴衆は細かい内容に興味がありません。細かい内容を話されるとむしろ、聞くことに興味がなくなります。
 対処法としては、概念的に抽象度が高いレベルで説明するようにします。やったことをそのまま話すのではなく、抽象度を上げて、内容を「物語」のように話すのです。その際、しばしば、絵や喩えを使うことが助けになります。
 それから、もう一つの技法は、思い切って話す内容を削ることです。話す内容が3つあるとしましょう。その中から最も説明がし易い内容、あるいは、話すと聴衆のためになると思う内容を取捨選択します。そして、プレゼンでは、3つの項目があるスライドを用意し、「話すべき内容はこのように3つありますが、時間の関係で、○○について説明します」と述べ、選んだ内容について説明します。

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