名盤誕生:稲垣潤一の「男と女」、「男と女2」

 久しぶりに素晴らしい日本のポピュラーアルバム新譜に出会うことができた。稲垣潤一の「男と女」、「男と女2」。名盤である。

男と女-TWO HEARTS TWO VOICES-

男と女-TWO HEARTS TWO VOICES-

 しばらく前に、広瀬香美さんがもうすぐ稲垣さんとレコードとか、アルバムが発売されたとか、Twitterでつぶやいていたと思う。全曲カバー(再録)にして、異なる女性ボーカリストとのデュエット。

何が素晴らしいのか

 カバーアルバムは時として、あまり手間をかけず、お金をかけず、短期間で、低コストで作ったのが見え見えということがある。今回のアルバムは、楽曲は既存のものではあるが、それ以外の編曲、サウンド作りに妥協がなく、オリジナルアルバムと同様の手間が掛けてあるように感じられる。
 一緒に歌ってみるとすぐにわかることだが、男性と女性が一緒に歌おうとすると、キー(音の帯域)が合わずに苦労する。男声に合わせると、女声は苦しく、その反対も同様である。今回の2枚のアルバムでは、メインボーカルがもっとも歌いやすいようにキーを設定し、メインボーカル担当の変化に合わせて、一曲の中で何度も転調している。ハーモニーボーカルが上に行くか下に行くかは、声域を考慮しながら綿密に計算して、アレンジしているようである。
 おそらく、何度も打ち合わせをしてキーを合わせ、編曲をし、歌の練習をし、精魂込めたアルバム作りをしているのであろう。

YouTubeより

 YouTubeに動画バージョンがいくつか公開されている。これを見ると、レコード会社側が非常に力を入れて制作していることが感じ取れる。

悲しみがとまらない / 稲垣潤一 & 小柳ゆき ライブ盤。極めて高い品質の楽曲、パフォーマンス、そして画質である。ライブでこの品質はすごい。必見。

クリスマスキャロルの頃には / 稲垣潤一& 広瀬香美 お二人ともTwitter仲間。スタジオ収録。向かい合っているのに、視線を合わせないのは、演出なのか、自然とこうなのか。

あなたに逢いたくて / 稲垣潤&松浦亜弥 松浦亜弥もしっとりと歌い上げている。背中合わせで歌っている。

天性のボーカリスト稲垣潤一

 稲垣潤一は1953年生まれ。今年で58歳になる。彼のデビュー年は1982年。私が大学1年の時。約30年近く、彼の歌を聴き続けている。稲垣潤一のボーカルは絶品である。私が私が学生時代、松任谷由実が日曜夜にAMラジオ番組をやっていて、「私が思う日本のボーカリスト・ナンバーワン」と言っていたことを覚えている。彼は天性の声色に恵まれている。例えれば、エメラルドのような色の声色。少し憂いを帯びている。少年らしさを感じる。ひたむきさを感じる。そして、音程が非常に正確である。驚くべきことに、58際になった今も、そのボーカル力は衰えを感じさせない。
 今回のアルバムの成功は、彼のボーカル力に加えて、彼の正確(少なくともオーディエンスからはそう見える)性格も要因となっているかもしれない。歌を聴く限り、そして、ビデオ映像を見る限り、彼の性格はドライに見える。好きな女性にも媚ないタイプ。といって、女性への思いやりが無いわけではなく、寡黙に一人の女性を愛し、守る。そのような男のように見える。それが不思議にも、歌からも感じ取れるのだ。
 歌を聴く限り、少なくともその誠実な人柄は感じ取れる。そんな彼の影響を受け、1曲ごとに呼ばれた女性のボーカル名手達も誠実に応えている。そんな風に聴き取れるのだ。

アルバム「女と男」を作るとしたら

 今回のアルバムは、稲垣潤一を中心に据え、女性のボーカル名手を集めている。逆に、女性のボーカリストを中心に据えて、男性のボーカル名手を集めたカバーアルバムを作るとしたら、誰を選ぶか。
 私が考える候補の一人は、山本潤子。「男と女1」でオフコースの「秋の気配」を歌っていて、非常によい。