ドック・ワトソン:アコースティックギターの歴史的人物

Doc Watson

Doc Watson

 このアルバムのオリジナル版発売は1964年.米国音楽のフォーク,ブルース,ブルーグラスの名盤だ.

 あなたがもしアコースティックギターを弾くのなら,ドック・ワトソンという名前を覚えておいて損はない.あなたはおそらく,フラットピックを持っているだろう.アコースティックギターでフラットピックを使い,メロディとリズムを同時演奏する奏法は,最初は,米国のフォークソング(文字通りの米国民謡だ)のグループ,カーターファミリーらによって始められ,ドック・ワトソンはそれに速弾き奏法を導入して進化させた.

 アコースティックギターを弾くあなたは,スリーフィンガー奏法を既に学んでいるか,学びたいと思っているかもしれない.スリーフィンガーの速弾き奏法も,ドックが開拓したといってよい.

 ドック・ワトソンは聞くと,歌も歌うが,ギターも歌う.しかも伴奏付きで,独奏でだ(時に伴奏を付けることもあるが).弾き語りの一種だが,楽器演奏の水準が非常に高い.

 米国Amazonサイトでは,CDは売っていないようで,MP3ダウンロード販売のみのようである.日本ではCDを買うことができる.ありがたい事である.

 http://www.amazon.com/Doc-Watson/dp/B000000EHR/

 私はこのアルバムを今から33年くらい前の中学生時代に知り,LPレコード盤で買った.そして何度もかけて,レコードをすり減らしながら,コピーした.思えばずいぶん昔である.オリジナル発売から45年も経っている.

 このアルバムを入手したのは今週だ.古めいて聞こえるかと思ったら,全くそんなことはない.デジタルリマスターされているかのような,良い音だ.我が青春時代が蘇ると共に,未だに古びないその普遍性に感動を覚える.

 興味のある人は上記の米国Amazonサイトで試聴してみて欲しい.まずは1曲目を聞いてみよう.45年も前の録音なのに,クリアーなギターのピッキング音が感じ取れるはずだ.

 このアルバム中で最も有名なのは,7のBlack Mountain Ragというインストゥルメンタル曲.ブルーグラススタイルのギターを弾く人が必ず学ぶ曲だ.迷いの無いクリアなサウンドを味わって欲しい.(短くて味わいきれないとは思うが)もともとはフィドル(ヴァイオリン)の伝承曲らしい.ドックは,ヴァイオリンの早弾きを,ギターで表現したのだ.

 10のDoc's Guitarも有名なインストゥルメンタル曲で,スリーフィンガー奏法の速弾き曲,

 そして11のブルース曲Deep River Blues.かのエリック・クラプトンには,アン・プラグドという有名なアコースティック・ライブ・アルバムがあるが,あのアルバムに収録されいても違和感のないような曲と演奏のように思えないだろうか.1964年オリジナル発売なのに.

 ドック・ワトソンは盲目である.しかし盲目であるかどうかは,彼の評価には関係ない.米国の伝統的なギター奏法を発展させ,歴史を名を刻んだ.米国の伝統的ギターは,ブルーグラスと言う米国音楽のジャンルがあるが,ブルーグラスにおけるギターソロは,ドック・ワトソンのフラットピッキング奏法を発展させたものである.

 アルバムを聞くと,彼の気さくな性格が伝わってくるようである.周りの人に愛されているのだろうなと思う.

 実際に会ったことはないが,数十年ぶりにこのアルバムCDを手にして,彼に再会した気分である.