「事業仕分け見えたものは」へのコメント

 2009年12月9日 朝日新聞朝刊のオピニオン欄「事業仕分け見えたものは(上)」では,下記の3氏がコメントを寄せている.

 以下はコメントに対する私のコメント.

枝野幸男氏 (民主党衆議院議員事業仕分けの国会議員チーム総括)

...9日間の本番のために事前の勉強を20日やった.要求側の省庁と査定側の財務省の担当者を呼び,2, 3時間かけて説明を聞いた.特に要求省庁からは事業の効果や天下りの実態を聞いた.時間配分はおおむね要求省庁3に対し財務省は1,財務省ペースにのってはいません.

 時間配分が要求省庁:財務省=3:1だからといって,財務省ペースにのってないといえるかどうかは疑問だ.財務省は事前に膨大な時間をかけて情報収集を行っているはず.彼らは査定のプロであり,しかも,エリート中のエリートが集まっている集団だ.特に主計局はエリートの3乗のような人達が集まっているところ.そして,攻め側だ.これまでも攻めて,「外野」からのノイズで苦渋を味わったようなところが,今回は俎上に乗っているはず.「攻めどころはここですよ」とポイントを伝えればよい.それに対して要求省庁側は,守備側だ.守って守って守りぬくには相当の時間がかかる.しかも今回は「外野」の応援なしにだ.

井沢幸雄氏(小田原市水道局参事,第一WGコーディネータ)

...2002年から40を超える自治体の事業仕分けをお手伝いしてきました.そんな経験を変われ,第1ワーキンググループのコーディネータを金田仕分け人として声がかかりました.

 自治体の事業仕分けと,国の事業仕分けを同じ手法でできるのか? よく言われた疑問である.できないかもしれない,でも何らかの経験を元にやってみるしかない,というところが実際のところであろう.

...そもそも事業仕分けの目的は予算削減ではない.何が無駄なのか,実務担当者に気づかせることです.予算編成過程を公開し,外部の目にさらすことでなぜその事業が必要なのか,予算執行に無駄はないのか,みんなを納得させる論理が必要と気づかせることです.

 このコメントには,大いに同意である.

...政府が政策的に判断するものは事業仕分けになじまない...でもなじまなくていいんです.まず立ち止まって考えることが大事ですから.

...科学技術予算のあり方について,一般の人達も関心を持った.見えないところで決めていたものを国民が理解することばで語る必要性を官僚も感じたことでしょう.

 正論である.良識ある説明である.このような説明を,民主党はもっとすべきであった.

...それにしても官僚は説明が下手ですね.自分だけ納得して相手を納得させる言葉を持っていないのでしょう.

 私は,各種委員会等で,相当数の官僚と意見交換してきた経験を有するが,これも同感である.すべての官僚が下手なわけではない.しかし,多くの官僚は上手ではないという印象を私も持っている.

高瀬淳一氏(名古屋外国語大学教授)

 同氏は事業仕分けとは直接は関係はしておらず,純粋なコメンテータとしての立場でコメントを寄せているようだ.

 印象的だったのは,政治家が具体的に数字を挙げ,理詰めで攻め込んだのに対し,受ける官僚たちが大義名分を語ったこと....こうした美辞麗句は,本来,政治家の言術であって,官僚の言葉は効率的な運用を語るはずなのに逆になっていた.

 政治家が具体的な数字を使って攻めたのは,おそらく,財務省からのデータ提供があったから.また,政治家はコミュニケーションのプロであるのに対し,現在の官僚の多くは,率直にいってコミュニケーション,特に公開の話や,ディベート的な能力は得意としていない.完了採用の際に,そういう観点は試験されていないと思うし,内部におけるトレーニングの機会もそうなく,昇進人事の際も考慮されていないと思われる.その代わりに,いかに省庁に対して貢献したか,所属する部や上司の仕事に貢献したかという観点は考慮されていると思われる.この点,民間企業,あるいはもっと一般に,日本の「組織」と呼ばれるものにおいてよく見られる現象であろうと想像される.
 今後,事業仕分けのように,国民の目に直接に触れる,より刺激的な表現で言えば,晒されることが一般的になれば,官僚が日頃行うトレーニング,昇進人事にも影響を与えることになるだろう.
 女優も俳優も,売れる程,多くの人の目にふれるようになり,綺麗になるという説がある.その理由は,本人のモチベーションが高まるためではないかと思う.
 いずれにせよ,オープンにして,人目に触れて耐えられるようになることは悪くない.

...とりわけ,「狡猾な官吏たち」に切り込んだ女剣士,主演女優級の活躍をした蓮舫さんの存在感は強烈だった.活字で読むと,数字や有効性を問う,まっとうで普通の論なのに,彼女の口から出ると,強い意志のようなものが強く伝わって舞台映えした.絶妙の配役だった.

 蓮舫氏はテレビタレント,ニュースキャスターのプロ,そして,政治家というプロであり,一般大衆を面前にして喋ることを生業とするプロである.舞台を踏んでいる数は膨大だ.一方,官僚は,多くの人を面前に喋ることが生業ではない.あの設定では,プロとアマの勝負である.
 
 つまり今回の仕分ける側チームの構造は,エリート^3の財務省主計局の頭脳と,喋りのプロが合体した,ドリームチームだったのである.

 率直に言ってこれまでの官僚は,一般大衆を面前に説明することに慣れていない.我々研究者も,説明責任をいろいろなところで求められるようになって来ており,「アウトリーチ活動」と呼ばれる,一般大衆を相手とした説明を行うことも求められるようになっている.社会は「オープン化」の流れである.時代の変化に合わせて,官僚側も変化・進化していくことであろう.

最後に一言.

 現在の官僚のシステムでは,いわゆる「キャリア」と呼ばれる上級国家公務員の官僚は,2-3年程度で,担当部署間をめぐるましく,移動させる人事異動が行われる.例えば,現在,経産省で情報担当の人は,以前は石油エネルギーを担当し,次は国際商取引担当という具合だ.しかし彼らは,新しい職務に着くや否や,驚くべき勢いでその分野の勉強をし,その分野のエキスパートのようになる.2-3年しか従事しないことが最初からわかっている割には,非常に立派である.このような人事システムなっているのには,不正防止や,癒着防止,あるいは,スペシャリストよりもジェネラリスト養成等,それなりの方針,理由があってのことであろう.しかし,それぞれの道の,真のスペシャリストでない限り,気迫のこもった一般大衆向けは難しいのではないかと思う.

 日本科学未来館館長の毛利さんの反論は,仕訳人にも,マスコミにも好意的に受け止められた.それは,彼が今や日本科学未来館館長として真のスペシャリストに成長したからであり,気迫を込めた仕事を日頃からしているからだと思う.