大滝詠一曰く,「恋するカレン」は60点

 1月10日放送の東京FM、山下達郎の「サンデーソングブック」は大滝詠一との新春放談第2回。そこで印象的だった話のご紹介。
 皆さんは、大滝詠一の「ロングバケーション」というアルバムをご存知でしょうか。大滝詠一という名を知っていれば、必ずご存知でしょう。ご存知でなくても、その中の曲は、コマーシャルか何かできっと聴いたことがあると思います。このアルバム、日本のポップミュージック史上に残る、歴史的名盤です。駄曲一切なし。すべての曲がシングルA面化可能ではないかと思われるような、驚くべきアルバムです。楽曲、アレンジ、演奏、歌唱のすべてがパーフェクトに調和しています。

A LONG VACATION 20th Anniversary Edition

A LONG VACATION 20th Anniversary Edition

 この中に「恋するカレン」という曲があります。

 名曲です。このボーカルすごいでしょう。歌詞もすごい、アレンジもサウンドもすごい。一緒に歌うと歌えますが、カラオケで歌うと意外と難しい曲です。

 Wikipediaにはこんな解説があります。http://ja.wikipedia.org/wiki/A_LONG_VACATION

ビリー・ジョエルの『ニューヨーク52番街』などとともに、CBSソニーから発売された初のCDアルバムのひとつ。日本のミュージシャンとしては初のCDアルバムでもある。(1982年10月1日。CD番号:35DH1、値段:3500円)。発売1年で100万枚を突破した。これは2006年の音楽市場規模に換算すると400万枚に該当する。1989年、リマスター盤を発売。

 つまり、一般に市販された日本人最初のCDがこのアルバムなのですよ。

「恋するカレンのボーカルは60点」

 この曲について、先の番組で大滝詠一がこんなことを言っていました。バックの音を作ったときにこれはすごい曲ができたと、スタッフの間でも評判になった。後は歌入れのみ。ところが大滝詠一が歌ってみるとすごく難しかった。つまり、作った本人が歌っても難しかったわけです。
 大滝詠一曰く、何度歌っても20点から40点くらいにしかならない。といっても大滝詠一はものすごい凝り性。録音からマスタリング、リマスタリングまで自分でやる能力をもっています。求めるレベルが非常に高い。彼曰く、数日かけて歌っても駄目だので、お蔵入りにしようかと思ったほどだそうです。でも1回だけ60点級の出来のものが録れた。60点だけどあきらめようと思った。それがアルバムに収録されているもの。
 こんな凄まじい葛藤の中で作っているからこそ、あんな、日本ポップミュージック史に残るモンスターアルバムが作れたのですね。

なぜ60点?

 大滝詠一のボーカルは、日本のポップミュージック界でも随一級のうまさです。いろいろな声色が使い分けることが出来、また、音楽、機材の知識ももの凄い。
 そんな大滝詠一が歌いながら、なぜ60点なのでしょう? 私、思うに、あの曲、ボーカル曲と言うより、器楽曲と思うのです。映画のテーマミュージックのような。大滝詠一の作品をイージーリスニング風オーケストラ演奏した公認アルバムがでています。

NIAGARA SONG BOOK

NIAGARA SONG BOOK

 この中に「恋するカレン」が入っています。メロディの美しさにうっとりとします。
 しかしこの曲を歌いこなしている大滝詠一は、改めて凄いと言わざるを得ない。本人が60点といえども、「恋するカレン」は、いや、「ロングバケーション」は、日本が生んだ最高級、不滅のポップスアルバムの一枚です。