読書の達人たちの「読むスタイル」

 元旦、朝日新聞朝刊第4部は「読むスタイル」というタイトルの読書特集だ。各界著名人が読書について語っているが、印象的なものの記録。

大江 健三郎(作家)

 日記は書かないが、13歳の頃から60年間読書カードのようなものを付けている。カードはなくすので、近ごろはノートに書いている。
 子供の頃、公民館の本を全部読んだという。母親にそう言ったら、その公民館に連れていかれ、母親が適当に選んだ1冊の最初を読み、後を続けるように言われた。最初の1冊はたまたま覚えていたが、その次以降はわからない。「あなたは何のために本を読むのか?忘れるために読むのか?」と言われたと言う。これはいけないと思って、カードを付けるようになった。1冊読むと、自分がどう思ったかを記し、大切な行を書き抜きする。
 興味深い話である。すごいお母さんである。
 これはと思う人の全集を半年かけて読む。一度読んだ本を読みなおすのも大切な読書スタイル。再読は「むやみに海に乗り出して行った人が、次は海図を持って公開に出るようなものですから」
 最近はBOSEの消音ヘッドホンを使って、居間のソファで読むこともあるという。大江さんがBOSEヘッドホンユーザだったとは。私もユーザです。

吉岡 忍(作家)

 吉岡さん、何と、本をPDF化して読んでいるという。まずスキャナーで表紙を取り込み、次に専用カッターで背表紙側を裁断して扉から奥付けまでカード状にする。厚さ1センチずつ両面スキャンができる高速のドキュメントスキャナーで読み込む。1つさん1センチの本で約1分半、3センチでも5分以内。(コメント:きっと富士通ScanSnapをお使いじゃないかな。)
 仕事で使う本、当面使わない本、読んだ本、読んでいない贈呈本などが外付けハードディスクに50GB、1500冊ほどはいっているとのこと。

 眼が悪いので、27インチの画面で本や雑誌を読むとのこと。昔の小さな活字の文庫や漫画も拡大して読めるから便利。
 翻訳本は片仮名、日本の本は平仮名であいうえお順に分類。著者名、署名、版元名、発行年度でアクセス可能。書棚で探すより格段に早い。
 デメリットは? A4サイズを超えると取り込めない。カード化した本は処分せざるを得ない。
 でも面白いことに、前より本をたくさん読むようになった。その意味で本が生きた。本は記憶の手がかり。本自体がなくなることはない。
 私もScanSnapのヘビーユーザ。偶然だが、ちょうど私も裁断機の購入を検討していたところ。
 関連情報。本をPDF化する道具が下記ブログで紹介されている。
 http://blog.tic-toc.info/2009/06/19/kindle-dx-calls-me-01/

小飼 弾(ブロガー)

 小飼弾さんは、職業が「ブロガー」なんですね。
 書評を中心としたブログを書く。影響力のあるブロガーで、アルファーブロガーと呼ばれる。私も時々読ませて頂いている。Twitterと共に。
 一日平均15冊の本を読むとのこと。プロはすごいね。
 ブログを始めた当初は、ついでのつもりで読んだ本の感想を書いていた。するとしだいに、それで「本が動く」(売れる)ことがわかるようになった。「そうすると、ますます読んでは書き、読んでは書き、となって...」すごいね。
 「ネットに感想を掛けば、知らない人からフィードバックがくるし、そこからまた読みたい本が増えていく」
 読書が「開かれた行為」になった。
 どうしてそんなにたくさん読めるのでしょう?
 「皆さん、ものを覚えようとし過ぎ。ぼくは読むはしから覚えなくてもいいと思われることは忘れていく。だから読めるんです」(コメント:前述の、大江さんの反対だ。)
 義務感から読んでも自分の血肉とならない。

北尾 吉孝氏(SBIホールディングス

 ライブドアの騒ぎの際にフジのホワイトナイトになると決断できたのは中国古典「論語」のおかげ。
 私の読書の80%は「枕上」(ちんじょう)。平日帰宅したら,横になって1時間半ほど読む。それから4時間くらい眠って午前4時前後に起き、布団の中でさらに6時までずっと読む。土曜、日曜も、食事時以外はほとんど寝転がって読んでいる。
 繰り返し読むのは古典,それも東洋思想。古典は先見の明を与えてくれる。金融や経営分野でヒントになるのも、ハウツー本ではなく,専門的な学術書
 何度も読むときに線を引く色を変える。本がぼろぼろになったら買い替える。

秋田 喜代美(東京大学発達心理学

 本を読む沈黙の時間が大切。一人で読めるようになると、孤独で静かな時空間の中で、内なる言葉をつくりだす。過去と今をみつめ、将来を考える。自分との深い対話経験が生まれる。