田村秀行先生(立命館大)らのMR-PreViz

 私,独立行政法人 科学技術振興機構JST文科省所管)のCREST/さきがけ「デジタルメディア領域」領域アドバイザーを務めております.この領域のCREST研究で,田村秀行先生(立命館大学,研究代表者)らが「映画制作を支援する複合現実型可視化技術」という研究課題で,MR-PreVizというシステムの研究をなさっています.

MR-PreVizとは

 MR-PreVizとは,Mixed Reality Pre-Visualizationの略で,現実の映像世界に仮想の映像世界を重ね合わせるMixed Realityの技術を,映画撮影の際の前準備として使用するというものです.

 田村先生らの研究がすごいのは,実際の映画制作者と組んで,本格的な映画作りにまで踏み込んでいること.MR-PreVizを使った本格的短編映画「カクレ鬼」が「ACTION/CUT 2009 SHORT FILM COMPETITION」で「BEST FOREIGN AWARDS」を受賞しています.私もDVDで「カクレ鬼」を拝見しましたが,とても魅力的な作品です.監督をはじめとして,スタッフの皆さんがMR-PreVizを使った印象を語るインタビューも収録されていて,作品作りにいかに活かされたかがリアルに語られています.「カクレ鬼」のホームページをご覧になると,その本気度が伝わってきます.

 11月5日,田村先生のプロジェクトの成果報告シンポジウム「PreViz技術がもたらす映像制作維新」があり,参加してきましたので,その様子をご紹介します.

会場のIMAGICA東京映像センター

 会場は,映画・テレビ番組・テレビコマーシャルの編集で有名な(株)IMAGICA 東京映像センターの第一試写室.IMAGICAは業界最大手の一つで,1986年までは東洋現像所という名前でして,映画やテレビドラマの最後に出てくる字幕にクレジットされています.東京映像センターには二つの試写室があり,第一試写室は大きい方で,147席.ゆったりとしたスペース,椅子で,映画館のようです.

 五反田地区は「映像村」と呼ばれているのだそうですね.映像系の会社が集まっていることも初めて知りました.映像業界の人にアピールするために,この業界のメッカといっていいこの地で成果発表することにこだわったのだそうです.後述するように,いくつもの苦労を乗り越えて.つまり,ユーザー指向.これくらいやって初めて,ユーザに使ってもらえるということは,多いに参考になります.

 今回のシンポジウムで最大の苦労は,何とこの試写室の確保だったのだそうです.この試写室,完成した映画の(映倫等の)検定用試写室なのだそうです.この時期は正月公開映画の検定ラッシュで,部屋を抑えるのがとても難しかったとのこと.

 JR大崎駅からIMAGICA社に向かう途中,ふと,目にとまった橋の欄干.
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 橋の途中から撮った風景.日頃,筑波では目にすることのない風景です.初めてこの地区を歩きましたが,初めて歩くところは風景が新鮮に目に映り,嬉しくなります.

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シンポジウム

 これが当日のアジェンダ.田村プロジェクトそのものの発表は1/4に留め,3件を外部の講演者にお願いしていることに,田村先生らしい心憎い演出,自信を感じました.本日の参加者は,映像業界で働くプロの皆さんが多いそうで,あえて業界の人に,MR-PreVizに限らず,広くプレビズ技術を語ってもらうことで,プレビズ技術を広く知ってもらうことも意図されているのだなと感じました.

14:00 - 14:20 Part1 : プロジェクト成果報告
「MR-PreVizプロジェクトの概要と研究成果の情報公開」
  田村 秀行(立命館大学

14:20 - 15:40 Part2 : 業界からの評価
(1) 映画制作における「MRプレビズ」導入思索と実証実験
  福本 隆司(IMAGICA

(2) CM映像制作におけるPreVizの威力とワークフロー
  松木 靖明(アイデンティファイ)

15:40 - 16:00 Part3 : 海外事情と展望
「米国におけるプレビズ事情と業界組織の設立」
  松野 美茂(VFXスーパーバイザー)

 通常のシンポジウムであれば,全日から半日で行いたいところ,多忙な業界の人に聞いてもらうためには2時間が限度ということで,敢えて2時間に収めるようにしたそうです.

 田村先生の講演スライドのタイトルページ.
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 観ている我々には分かりませんでしたが,このスライド表示にもご苦労があったそうです.この部屋は,フィルムは勿論,プロ用映像のあるゆるフォーマットを,最高品質の音響を添えて上映できる設備がある部屋なのだそうですが,我々がよく使う通常レベルのPowerPointMPEG1レベルの動画ファイル再生はできないのだそうです.そこで,別途,安いプロジェクタを持ち込み,PC出力の音を会場の高級な音響装置に接続するという,妙な苦労をせねばならなかったそうです.

デモ展示

 MR-PreVizシステムのデモ展示も行われました.キャメラ(映画の分野ではカメラのことをこう呼ぶのですね)が実世界の映像を映し,リアルタイム生成したCG映像をそれにオーバーラップ表示させ,現実世界と仮想世界をミックスさせます.これがMixed Reality.そして,キャメラマンキャメラを動かすと,それに追随して現実世界を映した映像も変化しますが,同時にCG映像も変化します.この働きによって,現実世界と仮想世界が溶け込んでいるかのように見えるのです.
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 こちらがミックスした映像.現実世界とCG世界が溶け込んでいるのがお分かりと思います.

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 キャメラにも小型液晶ディスプレィが付いていて,Mixed Reality映像を確認できます.そしてすごいのは,キャメラを動かしたり,ズームする動作に,CG映像もリアルタイムで追随すること.シンポジウム発表の中で紹介されていましたが,この機能は,キャメラマン,映画監督にとってとても嬉しい機能ということ.今までは勘に頼っていたキャメラワークを実映像で確認できる他,さまざまなキャメラワークを試す等の,今までは考えられなかったことに使えるのだそうです.

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 その映像をアップで.

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 現実世界とCG世界が溶け込んでいます.

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 これが処理装置.

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 こちらが田村先生.私,20年以上前からお付き合いさせて頂いておりますが,そのエネルギッシュな御様子は変わりません.

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 きれいなデモ会場です.ここは試写待ちで,著名人が談笑するロビーなのだそうです.田村先生はここで,水野晴郎さん,戸田奈津子さんと話したことがあり,おすぎや叶姉妹も見かけたとのこと.華やかな世界です.夢を見る,見せるところですものね.

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