スパコンと高級車の関係
昔のスパコン
昔,スパコンは,「スーパーカー」のようなもので,特別な素子とアーキテクチャ(ベクトル等)を使い,特別な作り方をしていた.その最たる例が「地球シミュレータ」である.ベクトル型スーパーコンを沢山並べていた.スーパーカーと同様,マーケットは極めて限られ,その割に開発コストは高い,部品が高い,維持費(電力,空調)も高い.そのため,性能に対する価格の割合が非常に高くなりがちである.世界のスパコン市場全体をわずかの限られたメーカが寡占するような状況であれば,ビジネスとして成り立つかもしれないが,様々な事情からそれはおそらく難しい.
最近のスパコン
最近のスパコンは「スカラー化」している.これは,上記のような特別な作り方をするのではなく,通常的な商用のハイエンド・サーバー機で使われるような汎用マイクロプロセッサを数多く並べ,かつ,スケーラビリティを確保するシステム化技術によってスパコンを作る.一部の演算を加速する演算器も,一般に使用され得るGPU(グラフィックプロセッサ)のハイエンドモデルを使う.
これらは,自動車に喩えれば「スーパーカー」的ではなく,量産される高級車を多数並べて使用することに相当する.ある限られた金額を購入と維持に投入するとき,非常に高価なスーパーカーを限られた台数,購入・維持するよりも,量産高級車を沢山並べた方がより多く並べることができ,結果,より高い性能を得ることができる.
ここからが言いたいこと
このようことができるためには,ハイエンド・マイクロプロセッサを比較的安価に生産出来ることが必要だ.そのためには,量産効果が必要だ.つまり,よい高級車を設計し,量産できる技術と,その前提となる市場シェアが必要だ.その市場シェアは当然ながら,一つの国よりも,グローバルな市場シェアを獲得している方が有利である.よって,スカラ型スパコンの開発競争は,結果として,グローバル市場で,安価な高性能プロセッサに提供している一部の企業に有利に働く.現在のところ,その「一部の企業」は米国企業である場合が多い.
このような「法則」に則らずに,スパコン(しかも世界一級の)を作ろうとすると,経済的な無理をしなければならない可能性は高い.市場価格より「割高」となる部分を国費や企業努力(寄付)で賄う等々.
日本の自動車産業は,前述のたとえ通り,高級車を量産する技術と市場シェアを有している.日本のIT産業はどうか? スパコンを含む,日本のIT産業の成長戦略をどう描くか.正に「戦略」が必要である.