電子申請はクラウドで:「因数分解」を進めよ

 朝日新聞asahi.comに次のような記事が掲載された.
「電子申請、19府県で休止・縮小 財政難が背景に」asahi.com 2009年11月29日)

行政手続きを市民がインターネットで行う電子申請手続きについて、47都道府県の利用状況を朝日新聞が調べたところ、財政難を背景に19府県が手続きの全面休止や縮小を実施、もしくは予定していた。費用がかさむのに利用が増えないためで、システムを安い方式に変えるなどの見直しも含め、2008年度に24億4千万円だった運用経費は10年度、16億1千万円以下に減り、3分の2になる見込みだ。

 1件あたりの運用コストでは、沖縄が最も割高で9万1463円。鹿児島(7万9783円)▽山形(6万1216円)▽愛媛(4万3209円)▽岐阜(2万5680円)と続く。

 政府のIT戦略に基づき、税申告や入札などの申請を電子化する動きは01年以降、国と地方で急速に進んだ。しかし、利便性やコストを後回しにした結果、非効率な実態を会計検査院から指摘されるようになった。

 電子申請システムを雨後の筍のように,日本各地の自治体ごとに作っていったことは,税金の使い方として無駄なことであった.これらの開発が進められたのは大部前のことであるから,当時の認識としては止むを得ないことだったのかもしれないが,自治体ごとに個別に電子申請システムを作ったことは,現時点の視点から言えば,非合理極まりない.クラウドコンピューティングの本質は,情報システムインフラの共有にあるというのが,筆者の持論である.正にこういうところにこそ,クラウドコンピューティングを導入すればよいのだ.

 地方自治体がそれぞれ,電子申請システムを作ったら,その数だけ仕様書作り,入札,運用等のコストを全く個別に支払わねばならない.数学をやっているときによくやっていた「因数分解」を思い出して欲しい.クラウドコンピューティング化とは因数分解だ.共通因数をくくり出すのだ.各自治体ごとの個別事情は,カスタマイゼーションとして,各項に残せばよい.そのようなことが可能となるようなクラウドコンピューティング・システムをメーカに競って作ってもらい,使い勝手がよいものがシェアを取って行くようになっていればよい.実際には,使い勝手の良いシステムを作ることは容易ではない.しかも日本人はおそらく,そのような設計をこれまであまりやってこなかったため,得意ではないかもしれない.だからこそ呼び水として,戦略的に税金を投入する価値があると思うのだ.

 ITシステムは公共事業であるという説がある.クラウドコンピューティングで「因数分解」をしたら,IT産業で働く人が困ってしまうという考え方だ.これからの日本のIT産業は,施工中心から,デザイン力で勝負できるように進化していくべきだ.外国製ソフトウェアや外国製サービスの運用や日本語化に甘んじている限り,日本のIT産業の真の進化はあり得ない.