容疑者Xの献身

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

 この作品を私は映画版で何回か見た。国際線飛行機上で2回。DVDで2回位。この映画は、ラストシーンが泣ける。この作品に限らないのだが、飛行機上で見ていると、不思議と、泣けるシーンのときになると、客室乗務員の人がやってきて、お飲み物はとか声を掛けてくれて、そのときに涙を流していたり、あるいは、これから来るぞというときに水を指されるようで興冷めの気がする。おそらく、乗務員の方々は、そういうことに慣れているのではないかと推察するが。

 今回は文章版で読んでみた。驚いたのは、映画とほとんど同じ内容になっていること。作品を忠実に実写化すれば、自然とよい映画ができるように感じられた。さすが直木賞受賞作である。

 推理小説のトリックは、トリック自体はよくできていても、殺人の動機に首を傾げざるを得ないことがよくある。作家としても、不自然でない動機作りに苦労していると思われることがよくある。

 メイントリックに触れないように、コメントするのが難しいのだが、この作品でも同様な面がある。この作品では、タイトル「容疑者Xの献身」をモチーフとすることによって、感動的なまでの、動機を含む設定を作り上げている。パズルのピースをほぼパーフェクトに、はめ込んだという印象である。御見事である。