追悼 ハワード・ゴビオフさん(グーグル社)

グーグル社のハワード・ゴビオフさん(Howard Gobioff, Mr., PhD)が,2008年3月11日にお亡くなりになっていたことをに知りました.同氏の正式追悼ページがこちらにあります.トップページの文章は淡々と書かれていますが,胸を打たれます.About Howrardタブには彼をよく知る人による想い出が,写真タブページには彼の思い出の写真が掲載されています.

グーグル社のほとんどのデータはGoogle File System (GFS)という独自ファイルシステム上に保存されています.グーグルの検索, GMail, Maps等,同社の主要サービスのほとんどがGFSを使っているはずです.このGFSの主要開発メンバーの一人がHoward Gobioffさん.CMUでPhD取得後,グーグル社がまだ20人位の小さな会社だった頃に入社した,初期メンバーの一人とご本人からかつて伺いました.

GFSの論文は,OSに関する学術会議の最高峰の一つ,ACM Symposium on Operating Systems (SOSP)の第19回(2003年)で発表されました.この年はニューヨーク州のジョージ湖湖畔のホテルで開催されました.私もこの会議に出席し,GobioffさんによるGFSの講演を拝聴したのが最初の出会いになります.

2004年に,渋谷にグーグル日本支社が設立されましたが,その立ち上げに米国グーグル社から派遣されたエンジニアがゴビオフさんです.あのGFSの開発者が我が国に来てくれた事を知り,嬉しく思いました.

当時私は,情報処理学会オペレーティングシステム研究会の主査を務めており,研究発表会やシンポジウムの企画を担当していましたが,できるだけ多くの人に彼の講演を聴いてもらおうと,2005年の情報処理学会並列/分散/協調処理に関するサマー・ワークショップ(SWoPP, 2005年8月,佐賀県武雄市)での招待講演を企画し,講演をお願いしたところ,快く引き受けて下さいました.同氏を武雄市までお連れするために,羽田空港で待ち合わせ,飛行機,電車を乗り継いで,現地旅館および講演会場までご一緒し,帰路も含め,旅の途中でさまざまなお話を伺いました.羽田空港では阿部洋丈さん(現 豊橋技科大)や渡辺卓雄さん(現 東工大)と出会い,旅を共にしました.

その後も,筑波大でグーグル社の別のエンジニアによる講演会を開催したときにも,アレンジの手伝いをして下さり,ご同行下さいました.

前述の同氏追悼ページ内で,米国カーネギーメロン大学コンピュータサイエンス学科長のPeter Lee教授は,ゴビオフさんは日本支社の立ち上げに尽力した後,同社のマンハッタンオフィスに移ったと書いています.同氏がこよなく日本と日本の文化を愛してくれていたことも言及されています.

グーグル社のすごいところは,ユーザとして使っている分にはほとんどわかりませんが,ゴビオフさんのような,コンピュータサイエンスの博士号をもち,凄腕のソフトウェア設計&プログラミング能力をも有する人達を数多く抱えていて,情報インフラを日夜,独自開発しているところです.その様子の一端を知ってもらいたいということが,上記招待講演を企画した私の思いの一つでした.

まだ若い,日本と日本文化を愛してくれたゴビオフさんがお亡くなりになっていたことを知り,私の心は悲しみで一杯です.これからも,グーグル社のサービスを使う度に,彼が作ったGFS,および,その発展形によってデータ管理が行われていることに思いを馳せたいと思います.

ゴビオフさん,ありがとう.