素晴らしき盲導犬の力

今夕,地下鉄車内で,盲導犬を連れた若い女性に遭遇しました。盲導犬を見るのは久しぶり。

盲導犬は女性の足元,後側に,できるだけ,スペースを取らないようにして座っています。私も含めて立っている人は沢山いましたが,皆,気を使ってか,臨席は空いていました(長いすの端の位置なので,臨席は一つだけ)。盲導犬は,防寒のためか,きれいな服を着せられた可愛い感じの犬。偶然,同じ駅で下車して後を歩くことになりました。

女性は左手に犬のハーネスを持ち,右手には杖等は持っていません(鞄を持っていたかもしれません)。杖なしにどうやって歩いているのか,盲導犬はどういう仕事をしているのか気になって観察を始めたのですが,最初は分かりません。しばらくするとある動きに気付きました。

犬は女性の若干前を歩き,要所,要所で,すっと止まるのです。エスカレータの乗るところ,降りるところ,階段の始まるところ,終わるところ,横断歩道の始まるところ,終わるところ。止まったのを女性が感じ取ると,左手のちょっとした動きで犬に(おそらく)「了解」という意味のシグナルを送り,それを感じ取って犬はまた歩き始めます。

素晴らしいですね。人と動物のコミュニケーション。どうやってこの技術を犬は覚えたのでしょう。当然,時間を掛けて,盲導犬育成のプロが覚えさせたのでしょうが,現実社会には,色々な場面があります。というか,一期一会,全く同じ場面は一つしかないでしょう。さまざまな状況に対して「柔らかく」反応できる「システム」を目の当たりにして,工学に携わる者としては,感動を覚えてしまいます。

さらに驚くべきことに気付きました。

地下鉄駅を出て,信号や横断歩道を越えながら,しばらくまっすぐ歩いていると,犬はあるところで,突然,左折し,女性もそれに従いました。もしかして間違い?と思って心配して,後をついて行ってみると,間違いではない様子。その後も何度か曲がり,地下鉄の改札口の中に入っていきました。

驚異的に思えるのですが,犬はおそらく道を覚えているのです。あるいは曲がるべき場所と,曲がるべき方向を覚えている。「眼」だけではない,「頭脳」の役割も果たしている。改札口に入るところでは,ICカードをタッチする場所を鼻でタッチしていました。犬は盲人の左側に居て,タッチするところは通常右。犬は,盲人の前を横切るように体を動かして,カードタッチの場所を鼻でタッチしていました。感動。

私は以前は動物を家で飼ったことがなく,最近になって自宅ででウサギを飼い始めました。そして,動物と人間がコミュニケートできること,動物がさまざまな「智恵」を持っていることを知りました。今夕,私が見た盲導犬の動きは,その能力を伸ばし,高度なレベルに達していると感じました。盲導犬,それを操る盲人,盲導犬の訓練者,そして恐らく,長年の多くの人々の努力と苦労によって積み上げて作られたのであろう「盲導犬」という文化。素晴らしいです。

PS. (2012-04-03)

盲導犬が何をしているか,書いてあるページを見つけました。「盲導犬はカーナビ?」の項に,いかに人間と盲導犬がコラボして,目的地に辿り着くか書かれています。素晴らしいです,種を超えたコラボレーション。
公益財団法人 東日本盲導犬協会「盲導犬のお仕事」