安西祐一郎先生の「デジタル脳が日本を救う−21世紀の開国論」

(以前(2010年12月です),安西祐一郎先生(前慶應義塾大学塾長,現日本学術振興会理事長)とのメールのやりとりをブログ記事に書きかけて,ずっと下書き状態になっていたものがありました。少々時間が経ってしまいましたが公開します。安西先生の年齢への言及がありますが,当時のままにしておきます)

 以前の拙ブログ「ガラパゴス列島か,チャレンジング列島か」を書いている最中に安西祐一郎先生のブログを発見し,言及させて頂いた。ちょうどメールをやり取りする機会があったので,このブログのことをお知らせしたら,

「加藤さんの結論については,拙著「『デジタル脳』が日本を救う−21世紀の開国論」(講談社)の主張と重なるところが大きく,同書をご覧いただければとても嬉しいです。

というご返事を頂いた。早速購入し,拝読させて頂いた。

『デジタル脳』が日本を救う - 21世紀の開国論

『デジタル脳』が日本を救う - 21世紀の開国論

 通常,一般向けに書かれた啓蒙書の論旨は,「あなた方は遅れている,私が進ませてあげよう」,「あなた方/彼らは間違っている,私が正してあげよう」というスタンスで書かれている事が多い。
 著者は序章でこう述べている。

 …国内では進化を重ねながら世界には通用しないことを指す「ガラパゴス化」という呼び方も一般化しました。
 …ではその責任はどこにあるのでしょう。…私はさらに,世の中を動かしていた大人世代みなが負うべきものと考えています。

 この序章を読んだだけで「革命的」と思った。安西先生は現在64歳。「大人世代」であり,ご本人はどうおっしゃるかわからないが「世の中を動かしていた大人」の一人と目されて然るべき人である。つまり,「大人世代」側の人が,ガラパゴス化してしまった責任を自ら認め,分析している。そして,「デジタル脳」を持つと著者が主張する「ネット世代」(1980年生まれ以降の人々)を肯定的に評価し,彼らに未来を託そうという視点で書かれている。世の中を動かしてきた大人への警鐘,若い人へのエール。私は,自分が30代前半の頃から長らく安西先生とお付き合いさせて頂いているが,同先生が変わることなく貫いてきたスタンスである。