ユーザが求めるモノを作る難しさ

アップル社のインダストリアルデザイン担当上級副社長が、インタビューで興味深い事を語っている。

以下、Gizmodo: 「アップルのデザインの進め方、責任者ジョナサン・アイヴが語る 」より引用。

Q:新製品を作り始める時のゴールは何ですか?
A:僕らのゴールはとてもシンプルです。それは、より良い製品をデザインし、作ることです。より良いものを作れないなら、それをしません。


Q:競合他社にそれがなかなかできないのは、なぜでしょう?
A:たしかに、できるところは多くありません。他社の大部分は、何か「他と違う」ことをしようとしていたり、新しいと思わせたりしたがっていますが、完全にゴールを間違えていると思います。製品を作るなら、それは本当の意味で「より良い」ものでなくてはいけません。それには厳しさが必要で、だからこそ僕らはそれをしたいと思うんです。より良い何かをやりとげようという、誠実で真摯な意欲を持てるんです。
普通の会社の上層部は、価格とかスケジュール、違って見えるための奇抜なマーケティングゴールなんかを気にしますが、そんなことは重要ではありません。そういうのは、製品のユーザーに対する認識の乏しい、会社都合のゴールです。

会社都合のゴールよりも、「ユーザ都合」のゴールを。これが成功している会社の共通点ではないかと思う。両方のゴールが一致していれば、最も幸せなパターン。iPodもそうだし、新型iPadの高精細ディスプレィもそういうものの一つであろうと思う。そして、スティーブ・ジョブズはわがままだったかもしれないけど、会社経営という制約の中で、一ユーザとしての視点があり、「ユーザ都合」を貫き続けた人だと思われる。

ちなみに、我が国発のIT技術で、「ユーザ都合」を貫いているうちに、(その世界で)世界的な支持を得るのに成功したのがプログラミング言語Ruby

新しいiPadは、文章、写真、映像分野のiPodを目指している

アップル社はどうしてiPadの画面画質にこだわったのか。私の予想は、音楽分野でiPodで成し得たことを、書籍、写真、映像の分野で成し遂げるため。

多くの人が望むのは、ハードよりもソフト(アプリ)、ソフトよりもコンテンツだ。(一部のマニアは逆に、高品質の、コンテンツよりもソフト、ソフトよりもハードを求めるが)アップルはiPodを作るに当たり、音質面で妥協しなかった。私はiPadのヘビーユーザだが、これまでのiPadは画質面で高品質ではなかった。新型iPadRetinaディスプレィでやっと、妥協のない画質が実現される。人々が求め、アップルが求めるものに、やっとハードウェア技術とそれを支えるソフトウェア技術が追いついたものと思われる。(新型iPadは店頭で触っただけだので、実際に新型iPadを入手したときに、この予想が正しいか検証したい)

今度のiPadの名前は「新しいiPad」。そのネーミングに私も含めて、多くの人が戸惑いを覚えたと思う。この一文を書きながら分かった。アップル社は最初からこのiPadを出したかったのだ。そしてやっとハードとソフトの技術が追いついた。iPadの再定義なのだ。

人々が求めるものを提供する。シンプルそうだが、これがなかなか難しい。それはかつて音楽分野で起きたことだ。ソニーはMDやデジタル型ウォークマン著作権管理にこだわり、著作権者が求めるもの寄りの製品設計(ハード&ソフト)設計をし続けた。私は当時、ソニーの人材部からの依頼で同社員にソフトウェアに関するレクチャーを数年に渡ってやっていた。ソニーの人に会うたびに上記のことを言い続けたが、ソニーの力だけではどうにもならない様子が窺えた。ソニーはコンテンツ部門をグループに抱えているため、コンテンツ側のスタンスを取らざるを得なかったのだ。その結果、国内および世界の市場をアップルにどんどん奪われていくのを見るのは、同胞として、昔からの一ソニーファンとして、悲しいことだった。