全電源喪失でも核燃料を冷やす方法

定期的に会議でご一緒させて頂いている先生が原子炉工学の専門家でいらっしゃること少し前にわかり,お話を伺いました.その先生が,大変に重要なご研究をなさっていることを知り,大いに驚きました.

私はコンピュータシステム屋ですが,今回の原発事故で感じたのは,原発をシステムとして見たとき,それが「不完全」なシステムではないかということです.原発は,冷やすことが必要で,停止時でも冷やすことを止めてはいけない.そのために,外部電源が本質的に必要.つまり,自分だけでは閉じていないシステム.この「不完全」さが根本的な脆弱性となり,今回の大事故を防ぎきれなかったように思います.

福島第一原発東京電力所管ですが,場所は,東北電力所管地域にあります.なので,外部交流電流を東北電力から提供してもらっています.他の電力会社ら電力を居休止続けてもらわないと,発電し続けられないのも悲しいところ.そして3月の事故では,その外部電力を供給する送電線の鉄塔が,津波ではなく,地震による土砂崩れで倒れたために,外部電源喪失という事態に陥っています.(例えば「福島原発の鉄塔倒壊、土砂崩れが原因 震災の揺れで」(朝日 5.17)参照)

同先生の研究テーマの一つがまさに,全外部電源喪失状態でも,原発燃料を永続的に冷やし続ける方法に関するもの.最初は,そんなことできるんですか?と思いました.その内容を手短にいうと,核燃料から発生する熱(崩壊熱)によって発生する高圧水蒸気を使って熱を原子炉外部に取りだし,熱交換を行って外部,例えば海などに排出する.なるほど!と,目からウロコでした.既存原発に後から付加することも可能であるとのこと.

素晴らしい技術なのにどうして既存原発で採用されていないのでしょうか?と伺うと,3.11まで,外部電源喪失のようなシビアな事故は起きないことになっていたので,研究予算も途中で途切れたし,原発関連会社も少しは興味を示したものの,実際の設置に至るまで行かなかったとのこと.

科学技術は素晴らしい.人の目を輝かせてくれるような,夢のようなものをもっています.しかし完璧な科学技術というものはなく,改良をし続けるしかありません.その改良が万全を期するような形で進められなかったことは残念でした.今後は原発も,万全を期するように研究開発が行われていくこと,不断の改善が行われていくことを期待します.

(以前,Facebook内で書いた内容をreviseして公開)