なぜIT技術は人々のストレスを減らしてくれないのか?

若い頃(今から約30年前),コンピュータは将来,人間の仕事と生活の生産性を高め,暮らしを快適にしてくれるものと思っていた.今日,IT技術は暮らしに欠かすことができないものになっているが,ストレスは減った気がしない.むしろ増えている.なぜだろう?と考え続けている.

その答え候補の一つを思いついた.IT技術が,人間がこなす仕事の並列性を高めてくれたから.以前は,仕事の並列度はそう高くなく,仕事は逐次的にこなすのが普通だった.しかし,IT技術が仕事の能率を高め,人間は並列にいくつもの仕事をこなせるように,そして,こなさねばならなくなった.

私の研究・教育分野はOSであるが,その中で難しいのは並行プログラミングだ.短いプログラムなのに,それが正しいかどうかを理解することはとても難しい.同時多発的にいろいろなことが起こる可能性があるので,考えるべき場合の数が多い.これと同じ事が,人間の脳で起きているのではないか.長い人類の歴史の中で,これほど並列性が高まったのはごく数十年のこと.この急激な変化に,人間の脳は追従できない.

そして対処法.ストレスを減らそうと思ったら,仕事の並列度を下げるようにすればよい.あまり沢山のことを同時にやらない.いくつもの仕事を抱えたとしても,同時にはやろうとせず,待ち行列に入れて,一つずつ仕事をしていくように心がける.並行的にやらざるを得ないときは,一つずつ,少しずつやる.

…としたいけれども,回りの人と調和性を保ちながらやっていくのは難しいかもしれない.