誰がベントするか

ベントとは,格納容器の弁を開放して水蒸気を逃がし、圧力を下げる作業のことだ.

福島第1原発:東電、ベント着手遅れ 首相「おれが話す」(毎日新聞)

その時は停電のため,ベントは作業員による手作業が必要であり,おそらく日頃,練習もしておらず,また放射能の影響下,作業をスムーズに行うのは難しかったであろう.

ベントは放射能を意図的に空中放出することになる.非常時のマニュアルには書かれているが,日本で過去に実施例がない.

「一企業には重すぎる決断だ」。東電側からそんな声が官邸にも聞こえてきた。

放射能を意図的に大量空中放出するには相当の勇気がいる.おそらく日本で誰もやったことのないことだ.もし政府側が命令を出してくれればやりやすかったであろう.あるいは,私が全責任を負うと,政府の誰かが言ってくれればやりやすかったであろう.

「翌12日午前1時30分、官邸は海江田万里経産相名で正式にベントの指示を出した。だが、保安院は実際に行うかどうかについて「一義的には東電が決めること」という姿勢を変えない。国が電力各社に文書で提出させている重大事故対策は「事業者の自主的な措置」と位置づけられている」

この文章を読むと,経産相は「指示」は出したが,「命令」は出していないようだ.そして経産省所管の保安院は,あくまで最終責任,結果責任は東電が負うと言っているようだ.

ベントしろ,経産大臣もそう言っている,そして,責任はおまえが負うしかない.東電側もつらかったであろうと推測する.「最悪」に順位をつけねばならない.

1号機でようやくベントが始まったのは午前10時17分。しかし間に合わず、午後3時半すぎに原子炉建屋が水素爆発で吹き飛ぶ

このような現在進行形の非常時,しかも未経験の非常時に的確な判断,作業を行うのは困難なことである.今後の教訓にするとすれば,「想定外」がないくらいの,最悪事態を想定した作業手順,訓練をしておくしかないのではないか.

とすれば,福島原発以外のすべての原発で,最悪事態を想定した対応を今すぐにでも始めるべきのように思われる.

原発は大きなコストとリスクを伴うことが,日本人は身に染みてわかってしまった.これまで暗黙のうちに仮定されていた電力の「スケールアウト」(台数を増やすことによる大容量化)は今後はおそらく難しい.

日本の産業,生活,幸福の在り方を再考する時が来たと私は考えている.