情報システムは「デザイン」されているべし

 最近,某省の仕事の手伝いで,バックエンドにデータベースがある,専用作成された情報システムを長時間に渡って作業する機会がありました.Windows XPのノートマシン.LAN内クライアントサーバシステム(オンプレミスシステムの典型).これのユーザインタフェースユーザビリティ,レスポンスがとても悪い.機能的に必要要件は満たしていると思われますが,使いづらい.しんどい.

 一緒に作業をしている人(他大学の先生)に,これ使いづらくありませんか?と尋ねると,使いづらいと思うけど,直すと1千万円以上かかるらしいですよ,とのこと.

 セーブするタイミングをミスすると,登録した情報が消えてしまう.セーブに要する時間がなぜか30秒くらいかかる.データベース検索していると思われるときも30秒くらいかかる.夜になって,ユーザが私だけになってもこのレスポンス速度は変わらない.

 あちこちの画面を行ったり来たりしないといけないが,画面切り替えにも20秒くらいの時間を要する.私の勘ではおそらく,データベースアクセスのタイミングが注意深く作られていない.キャッシュすべき所でしていない.あるいは,クライアント-サーバ間通信のタイミング,プロトコル設計がよくない.

 長時間に渡って強いストレスを感じながら作業をしているうちに,これが従来の,紙ベースの作業だったらどれほど楽かと思いました.

 そして作業も終わりに近づいた夜遅く,次の「格言」が閃きました.

情報システムは「デザイン」されているべし

 どんな情報システムもデザインはされています.おそらく,この情報システムだってデザインはされているでしょう.そうでないと作れませんから.しかし,建築において建築家がするようなデザイン,服飾においてデザイナーがするようなデザイン,産業界でインダストリアルデザイナーがするような,プロフェッショナルなデザイン,クライアントの厳しいレビューや消費者の厳しい選択に耐えるようなデザインがなされていない.

 情報システムは目に見えにくい.一見,ユーザインタフェース部のデザインは目に見えるのだけど,それの使い勝手はしばらく使わないとわからない.さらに内部の情報構造や情報のやりとりは,通常,外からは全く見えない.

 これが外国だったらどうか.この情報システムを使わせたらすぐに,ブーブー言うと思います.日本人は我慢強い.シャイ.(最近は,モンスターXXがいるらしいけどね)しかも情報システムは難しくて当たり前という先入観を持っている.日本の情報システム提供者はそれに甘えている.進化が足りない.

 日本は伝統的に,非常に洗練された文化を多く持ちます.例えば,食,花,茶.いずれも,「道」として,長い時間を掛けて磨き抜かれている.その進化してきた結果を我々は享受している.

 しかし現在の情報システムは,そういう意味で進化しているとは到底思えない.主として米国から来る技術のテンポが速く,その追随に精一杯で熟成できていない.

 そこで思うのです.情報システムも,他の産業製品と同様,「デザイン」がしっかりとされているか,みんなで意識しよう.発注する段階,制作者が提案してきた段階で,デザインがしっかりとしているか,よく考えよう.発注するときに,よいデザインをしてくれるところを選ぼう.そういう評判が立っているところを選ぼう.もし自分が,デザインを評価するセンスがないと思ったら,センスがありそうな人の意見を聞いてみよう.洋服選びやネクタイ選びの時のように.

 そうしているうちに,情報システムを作る側も,デザインの重要性がわかってくると思うのです.あるいは得意なところは「売り」にしてくる.そして,デザインがよくしなければいけないのは,当たり前なことになっていく.

 ここで言っているデザインは,目に見えるデザインだけではありませんよ.総合的な使い勝手.だから正確に言えば総合デザイン.自動車で言うと,外装だけでなくて,内装,運転フィーリング,同乗者フィーリング,安全への配慮,耐久性等.

 自動車は数百万円.個人にとってはとても高い買い物です.皆,真剣に選びますよね.選ぶ人の個性も表れる.あるいは問われる.発注して作ってもらう情報システムは通常,安くて数百万円から数千万円.数億円超だってざら.新車を選ぶ真剣さをもって,情報システムの「デザイン」を考えよう.それによって,日本の情報システム提供者のレベル,そして,ユーザのレベルが共に高いレベルに上がっていくと思うのです.