「かぐや姫おんすてーじ」はコンセプトライブ: 懐かしい時代

 かぐや姫アルバムに対する私的思い,第2弾は,彼らのセカンド・ライブアルバム「かぐや姫おんすてーじ」(1972年発売).

 当時のフォークミュージシャンは,よくライブアルバムを出してくれた.最近のロックミュージシャン,ポップスミュージシャンは「私はライブが大好き」ということを売りにしたり,路上ライブ出身を売りにするが,当時はライブで頭角を表して,レコードデビューを果たすのがごく普通の時代であった.ライブで観客に感動を与えられるレベルに達して,初めてレコードデビューを果たすことができた.現在,ライブが大好き,ライブがいい,ということをわざわざ言うのは,ポップ系音楽の商品的要素が高まり,ライブがどうかというより,商品としてその音楽が売れるか(もっと言えば,消費されるか)ということの比重が高いためであろう.

1. ひとりきり(作詞・作曲 南こうせつ,編曲 小山恭弘)
2. 田中君じゃないか(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 小山恭弘)
3. きっぷ(作詞・作曲 山田つぐと,編曲 かぐや姫
4. 約束です(作詞 及川恒平/作曲 小室等,編曲 かぐや姫
5. この秋に(作詞 喜多条忠/作曲 南こうせつ,編曲 松任谷正隆
6. あの人の手紙(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 伊勢正三
7. 少女はいつも(作詞 山田つぐと/作曲 南こうせつ,編曲 木田高介
8. 今はちがう季節(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 松任谷正隆
9. 好きだった人(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 南こうせつ
10. そんな時(作詞 山田つぐと/作曲 南こうせつ,編曲 木田高介
11. おもかげ色の空(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 石川鷹彦
(Wikipeida http://ja.wikipedia.org/wiki/かぐや姫おんすてーじ 編曲はCDライナーノートより)

南高節:フォークギター
伊勢正三:フォークギター
山田つぐと:ウッドベース
石川鷹彦:フォークギター
木田高介:ピアノ、コンボオルガン、ビブラフォン
原茂:ドブロギター
山田英俊:ピアノ(A面のみ)

 かぐや姫は解散までに5枚のアルバムを残し,そのうちの2枚がライブアルバムだ.(解散後,再結成し,アルバム一枚を発表している)このライブアルバムは,フォークギター,ウッドベース,ピアノ,コンボオルガン,ビブラフォンという構成で,アコースティックギターベースのサウンド,しかも技術的な難易度がそう高くなく,ライブなので多重録音なし.ギター少年だった私の中学時代(今から約35年前),コピーがし易いアルバムで,友人と全曲コピーをやっていた.

 このブログを書くに当たって,何度も集中的に繰り返し聞き返した.中学時代は,レコード,カセットテープで繰り返し聴いたが,今は携帯端末で歩きながら,あるいは,電車の中で簡単に聞き返せる.有難いことである.中学の時に沢山聞き,今になっても聞き飽きることがない.やはり,このライブアルバムも名盤であると言わざるを得ない.

 このアルバムは一種の「トータルアルバム」になっていると思う.私が思うに,コンセプトは「懐かしい時代」35年前に聞いても「懐かしい時代」,今聞いても,「懐かしい時代」.スターウォーズのエピソードI〜IIIの統一コンセプトが「懐かしい未来」だったらしいが,このアルバムは,いつ聞いても「懐かしい」匂いを漂わせている.比較的に単純なコード進行,アコースティックギターベース+ピアノのサウンド.フォーク+カントリーミュージック的なアレンジ.ひねりを加えない,ストレートな詞とメロディ.

 南こうせつの歌の旨さは昔から有名だが,ここでは無理をせず,80-90%くらいのパワーで歌っている印象である.曲目リストの作詞・作曲欄を見るとわかるように,メンバー3人で,3つどもえのように歌を作っている.バンドの幸せな時代である.

 このライブアルバムを何度聞いても聞き飽きないもう一つの要素.腕利きバックミュージシャンだ.石川鷹彦と原茂はアコースティックギターの名手,木田高介東京芸大打楽器科出身の編曲家&マルチプレイヤー(多楽器奏者)だ.

 以下は曲ごとの個人的な印象.

1. ひとりきり(作詞・作曲 南こうせつ,編曲 小山恭弘)
 印象的なピアノによるイントロから始まるのどかな曲.レコードではA面であったと思われる1-6は,かぐや姫3人によるトリオ演奏と山田英俊によるピアノ伴奏のシンプルな構成である.

2. 田中君じゃないか(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 小山恭弘)
 リードボーカルが,こうせつ→正やん→こうせつと変わる.正やんのベルベットのような歌声が印象的である.

3. きっぷ(作詞・作曲 山田つぐと,編曲 かぐや姫
 リードボーカル山田パンダに変わる.リードギター伊勢正三.結構複雑なフレーズを弾いている.私の中学時代,市販コピー譜を見ながらコピーして,できるようになったら嬉しかった.全編に渡ってメロディとは独立なラインのリードギターが入るので,一見難しそうだが,いくつかのフレーズの組み合わせになっていて,慣れると弾きやすく,リードギターが上手くなった気になれる.

4. 約束です(作詞 及川恒平/作曲 小室等,編曲 かぐや姫
 楽器演奏は控えめにし,3人のハーモニーをフィーチャーした曲.PPM風かもしれない.

5. この秋に(作詞 喜多条忠/作曲 南こうせつ,編曲 松任谷正隆
 心に残る歌詞,歌,バックコーラス,編曲(ピアノ+ギター)である.編曲が松任谷正隆であったことを今回初めて認識した.きれいなピアノメロディは同氏によるものなのであろう.編曲をかぐや姫3人に加えて,松任谷正隆木田高介石川鷹彦が担当している.派手なアルバムではないのに,豪勢なサポート陣である.

6. あの人の手紙(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 伊勢正三
 再結成時も含めて,おそらくすべてのかぐや姫のライブアルバム,ライブDVDに入っている曲.おそらくかぐや姫で唯一,戦争をテーマに歌った曲.最初に聞いた時(中学時代)は戦慄が走ったことを覚えている.おそらくA面最後,ステージ第一部最後の曲.作詞・作曲共に極めて高いクオリティだ.

7. 少女はいつも(作詞 山田つぐと/作曲 南こうせつ,編曲 木田高介
 レコードB面一曲目,ステージ第2部オープニングの曲と思われる.B面はサポートミュージシャンが3名入り,メリハリを付けている.出だしのリードギター石川鷹彦,ピアノは木田高介,パーカッション(小編成ドラムス?)は誰だろう?ドブロギターが原茂.

8. 今はちがう季節(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 松任谷正隆
 作詞・作曲共にハイクオリティ.素晴らしい石川鷹彦リードギターが聞ける.サウンド,表現ニュアンスまで含めると,コピー不能レベルのギターだ.てっきり編曲は石川鷹彦と思っていたが,編曲は松任谷正隆という.オルガンは木田高介かぐや姫石川鷹彦木田高介を心底愛する私にとって,このライブアルバムのベストトラックであり,至福の曲である.

9. 好きだった人(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 南こうせつ
 伊勢正三による,非凡な歌詞である.2番の歌詞から,下記で言及するが,西岡たかしが「あの当時の唯一の天才」と言ってはばからない,木田高介ヴィブラフォンが入ってくる.ボーカルとコーラスを邪魔しない様に控えめに入っているが,このヴィブラフォンは絶品ものだ.

10. そんな時(作詞 山田つぐと/作曲 南こうせつ,編曲 木田高介
 リードギター石川鷹彦ヴィブラフォン木田高介.全編に渡り,木田のヴィブラフォンがスローな夢幻の世界を作り出し,それに石川のギターが絡んでいく.

11. おもかげ色の空(作詞 伊勢正三/作曲 南こうせつ,編曲 石川鷹彦
 出来て間もない時期のようで,まだ歌も演奏も慣れていない印象がある.石川鷹彦が編曲の割には,同氏の演奏はフィーチャーされていない.全体を木田のオルガンが引っ張っている.石川のギターか原のドブロギターによるソロが挿入されてもいいのが個人的な印象.

 石川鷹彦木田高介については,書きたいことがたくさんあり,また稿を改めて書いてみたい.石川鷹彦は今も活躍で,紅白歌合戦にもギター伴奏で何度も登場しているので,知っている人も多いと思うが,木田高介(故人)を知っている人は多くないかもしれない.彼についてはいずれ書きたいと思うが,西川たかし(五つの赤い風船)の言葉を予告編として引用しておこう.

◆アレンジの斬新さの秘密は?
 当時からゲイリー・バートンとかミルト・ジャクソンが好きでしたから、ヴィブラフォンと生ギターが合うんじゃないかと思ったんですね。木田高介(ex.ジャックス)が参加しくれて、彼はもっと専門的な勉強をしてましたから、僕よりはるかに上手い人なんです、フルートも何でも出来るし。彼は、あの当時の唯一の天才ですよ。惜しい人を亡くしました。アレンジをする時に、それまでの人が使っている常識的なアレンジじゃ面白くないし、誰もやってないアレンジで音楽を作る、というのはメンバーの合意でしたから。僕がオートハープを使うのも歓迎されてました(笑)。

http://www.ongen.net/ml/artist/itsutsu_no_akai_fusen/